ウルフ・恋人・歴史脱出・宇宙・引用・偽物たち…(文学フリマ41委託販売ブースなどのご紹介)

文学フリマ41でぜひお訪ねいただきたいブースについて書きます。
かわのさきこ 2025.11.22
誰でも

いま、脈絡なく群馬県前橋市に来ています。思っていたよりも遠い場所。

街路樹のとても多い街で、木の葉は赤や黄やオレンジに色づいています。きょうは画に描いたように澄み切った秋晴れ、乾燥した鋭い北風がくるくるとあたりを駆け巡り、落ち葉の色とそのいいにおいを天高く(ほんとうに、ビルの5階くらいまで!)紙吹雪みたいに巻き上げている。

昨晩は繁華街から少し離れたところに泊まっていましたが、夜空は暗く広く、くっきり目視できる星がいくつもあり冬のオリオン座があざやかでした。スマートフォンで夜空を撮るといくつも星々が写るのは、近ごろのカメラの性能ためか夜空がほんとうに明るいからかよくわからないけれど。

今日は展覧会を見て原稿を書いたら東京に戻り、明日は文学フリマ東京に出かけようと思います。

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文学フリマ東京では、『船はついに安らぎぬ』脚本を3つのブースで委託販売いただきます!

どのブースもそれぞれに面白く、そしてまったく色合いが違うので、(脚本を3冊買うことはないと思いますが)ぜひ普段行かないエリアに出向くきっかけにしていただけると嬉しいです。

今回のお手紙では、3つのブースとその他いくつかのブースをご紹介したいと思います。

・し-19・作家の手帖/ウルフ『灯台へ』ほか
・N-41〜42・V系SF/偽物アンソロジーほか
・Q-13・史想社/歴史脱出アンソロジーほか
・あ-51〜52・Kaguya Books/ホープパンク特集ほか
・X-21~22・ゲンロン/超SF創作マニュアルほか

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その前に、作品そのもののお話を——

『船はついに安らぎぬ』は、2025年6月に初演された同名のオペラ作品(永井みなみ作曲)の脚本ですが、作曲そして演奏・演技・演出がほとんど完成したタイミングでト書きを大幅に増補改訂し、舞台全体を(完全ではなくても)追体験できるようなつくりになっています。普段戯曲を手に取ることの少ない方も、1冊の小説を読むような感覚でお楽しみいただければ幸いです。

今回、素敵なブースで委託販売いただけることが決まり、思い切った部数を大急ぎで増刷しました。じつはわたしは自分で入稿作業をしたことがなかったのですが(これまでは主にデザイナーさんに入稿いただいていた)、今回は緊急増刷ということで、本書のデザインを手がけた吉野さんに急遽2刷り用のデータを送ってもらい自分で入稿しました。入稿作業とはかくも緊張するものなのかと感じ入りつつ——無事納品されたときの安心感もひとしおでした。

委託販売ということで発送や運搬の回数が多くなるため、保護のためのビニールカバーを一冊ずつかける作業もよなよな頑張りました。こういった神経症的な作業はさいわいにも生まれつきとても得意なので、一冊残らずまっすぐヨレなくかんぺきにカバーがかかっているはずだと思います。3箇所のブースでお取り扱いいただくので、笠井さん・渡邉さん・長谷川さんにそれぞれ荷物を梱包・発送して準備完了、無事受け取ったとのお返事もいただき、あとはお知らせをがんばるのみ!です!

し-19・作家の手帖/ウルフ『灯台へ』ほか

「作家の手帖」は、作家・編集者の笠井康平さんと、ライター・編集者の小澤みゆきさんのおふたりによる、「「もの書き」が生活に役立つ知識を持ち寄るメディア」です。

笠井康平さんの近著は小説集『さみしがりな恋人たちの履歴と送信』(いぬのせなか座叢書8)、また作者の報酬とは何かを主題にもつ研究者でもあります。小澤みゆきさんは『かわいいウルフ』編著や文芸プロジェクト「海響舎」主宰の活動で知られます。もの書き=プレイヤーとして活動するのみならず、それを取り巻く状況を歴史的な深度においてとらえて現代に還元するおふたりです。

「作家の手帖」ブースでは、1930年の日本初訳を約100年ぶりに復活させた、ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(葛川篤訳)が販売されます。昭和初期の日本がモダニズム文学と交感する瞬間を閉じ込めた1冊です(余談ながら、いまこの文章を書きながら思い出したのは、今年書籍化されたデイヴィッド・ダムロッシュの世界文学講義において、樋口一葉をモダニズム文学としてダムロッシュが論じていたということ——旅先なので引用できないのだけど——近代化がグローバルな現象であればこそモダニズム文学もまた(あくまで影響関係ではないかたちでの)同時的な現象として見出されうるという論があり、一方で各国の地域的な(日本文学としての)コンテクストとの乖離は顧みずともよいのかと指摘されてもいたように記憶しています)。

同ブースでは長濵よし野さんによる大庭みな子研究論文の梗概も販売されます。

そのお隣の「いぬのせなか座」(し-17~18)では、笠井康平小説集『さみしがりな恋人たちの履歴と送信』、また山本浩貴新刊論集『フィクションと日記帳』などが販売されます。いずれも、わたし自身、文学フリマで毎回新刊を購入しているエリアです。ぜひお出かけください!

*上記リンク先の笠井さんのお知らせ記事では、《船はついに安らぎぬ》オペラ公演の短評もいただいています。うれしい…!!

N-41〜42・V系SF/偽物アンソロジーほか

渡邉清文さん主宰の「V系SFの店」ブースでは、新刊の『偽物の物語』アンソロジーと、『偽物歌集』が販売されます。

わたし個人はヴィジュアル系の音楽と縁が深いわけではないのですが、「V系SF」とは浅からぬ因縁があります。もとを辿ればわたしがポッドキャスト(ダールグレンラジオ)を精力的に制作していた時代、伏見瞬さんと樋口恭介さんをゲストにお呼びして収録した番組が思いがけず変調してX Japanの話になりいつしか「SFを書くならV系を聴くべき」という話に展開して(その後もいろいろなことがあったのですがそれは省略するとして)、やがてV系SFなる概念とその表現活動が渡邉清文さんたちのもとではじまったのでした。

かなり前の番組で記憶がうすれているところではありますが、人気の収録回だったことには間違いないので、ポッドキャストのURLを再掲したいと思います。いま冒頭だけ聞いてみたら、しょっぱなからわたしが変調して皆さんに総ツッコミされており楽しそうです……。

渡邉清文さんとも浅からぬ仲で、遠方で開催されるSF大会に出かける際にはちゃっかり渡邉さんのかわいいフィアットに同乗させていただくなどさまざまにお世話になっています。

今回わたしも『偽物の物語』にエッセイを寄稿しており、じつはそのエッセイは『船はついに安らぎぬ』で引用した物語をすべて明らかにするという内容です。ほかの諸締切がしっかり重なってしまい、渡邉さんの寛大さにより入稿ぎりぎりでの執筆・提出をお許しいただきました(その節はありがとうございました…!!)。ものすごい速度で書いた文章ではありますが、情報としては面白いと思います。『船はついに安らぎぬ』と合わせてご覧になればなおさら、いろいろな発見が——あるかもしれません!

執筆者:揚羽はな、雨庭有沙、安斉樹、河野咲子、琴柱遥、佐藤久、花草セレ、笛地静恵、真壁潜熱、森崎とわ、葉々、渡邉清文

Q-13・史想社/歴史脱出アンソロジーほか

「史想社」は、大恵和実・十三不塔編『歴史脱出アンソロジー』が販売されるブースです。

十三不塔さんはいわずとしれたSF作家。数年前に灼熱の岐阜・名古屋でいっしょに遊んで熱中症になって以来、さまざまにお世話になっています。今回、必ずしもジャンル的に近いわけではないかもしれないけれど——と留保付きで委託販売をお声がけいただきました。うれしい、ありがとうございます…!!

『船はついに安らぎぬ』は見たところ歴史でも脱出でもないかもしれませんが、でも主要な登場人物であるポオは実在するあの作家をモデルにしていますし(さわやかなメゾソプラノの青年としての登場ですが)、ある困難に対してある種の脱出を果たしたと言えなくもないかもしれません。

いずれにしても、ベテランから若手まで、ジャンルを超えて20名近くがあつまったアンソロジー。「アポリア(難問・行き詰まり)からの出口を求めて奮闘した人々の歴史を描いた18の物語」です。十三不塔さんのnoteでは「同人誌ほそ腕奮闘記」と題して全4回にわたり制作記が連載されるなど、プロモーションにも気合が入っており期待が高まります。同人誌のとりまとめはわたしも(じつは)経験したことがなく、今回は自分の作品を増刷するだけでも非常にばたばたしたのに、いわんや大所帯のアンソロジーを制作することの気苦労をや——でも、不塔さんもお書きになっているように、文学フリマで販売される種々のアンソロジーは同じような事務的・作業的な煩雑さを乗り越えたあとで奇跡的に発行されているはずで、そのことを思うと文学フリマという場は途方もない場所だなと思います。

執筆者:楊楓、林譲治、大野城、木海、十三不塔、波間丿乀斎、称好軒梅庵、千葉ともこ、高山真由美、立原透耶、畠山丑雄、武石勝義、長谷川京、藤琉、涼海風羽、宮園ありあ、水町綜、早海獺

大恵和実氏編集の話題書『宇宙大将軍侯景 SFアンソロジー 梁は燃えているか』(志学社)のサイン本も文フリ価格で販売されているということです!

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ここまで、『船はついに安らぎぬ』脚本を委託販売いただくブースをご紹介いたしました!

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文学フリマ限定ではありませんが、以下のブースにもぜひお立ち寄りください。

あ-51〜52・Kaguya Books/ホープパンク特集ほか

前回の記事でご紹介しました、堀川夢さんご執筆の『船はついに安らぎぬ』劇評の掲載された『Kaguya Planet  vol.07』ホープパンク特集がいちはやく入手できる模様です!(今後、書店や通販などでも入手可能となると思います)

Kaguya BooksはSF関連の事業を展開するバゴプラさんによるレーベルであり、Kaguya Planet以外にも多数の既刊が販売されます。

X-21~22・ゲンロン/超SF創作マニュアルほか

こちらも前回の記事でご紹介しました、巻末付録調査執筆でご協力した『超SF創作マニュアル』が初売りとなります!(大森望監修、小浜徹也・井手聡司執筆、河野咲子・東浩紀協力)

こちらも後日べつの方法でもおそらく販売されるかと思いますが、いちはやくご入手されたい方はぜひご来店ください。

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O-21〜22・SCI-FIRE(甘木零編)、N-53〜54・ふわふわでとてもえらい(人間六度編)、N-69・超うさぎ文明(八代七歩編)、T-74・ffeen pubでは、わたしも小説を寄稿した既刊が販売されると思います。ffeen pub刊・桜井晴也『愛について僕たちが知らないすべてのこと』話題の近刊です。

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わたし自身は15時ごろから会場にいる予定です。今回はブースに立つ予定はないので、いろいろな書籍のことをもっと知ることができればと思っています(もしかしたら後日、文学フリマで手にした書籍について配信などするかもしれません)。

なにかしらわかりやすい服装をしてゆければと思いますので、見かけた方はぜひお声がけください。

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